私が合羽に着替えたら…漁師体験記(その2)


前回で旋網漁船についてご説明しましたが、私は網船に乗っていました。
鹿児島県の東シナ海沿岸が漁場で、アジ、サバ、イワシ、サンマ、タイ、カツオ、マグロなど多獲性浮魚を中心に漁獲をしていました。
浮魚とは海面近くの表層から中層に生息する魚で、ヒラメなど海底に生息する魚を底魚と呼びます。

旋網船団で中心的存在の網船には10名程が乗り込み、船長、甲板長、一等航海士、機関長、料理長、機関員、甲板員とそれぞれ役職がありました。
漁労の責任を一手に引き受ける漁労長は灯船に乗り、壮大な海原で魚群を探し追いかけています。

昼過ぎから夕方前にかけて、漁港を出港します。
漁師たちは出航の1時間前に漁港に集まり、自分が乗る船に乗り込むと出航と漁の準備に入ります。
一方、料理長は昼前にスーパーマーケットへ出掛けて夕食や夜食の材料を買い出します。
買い出ししてきた食材を、台所の保管庫や冷蔵庫に片づけます。
この漁船は台所のみ真水を使用するので、出航前に必ず真水のタンクを確認していました。

出航後、破れた網の補修や、漁の資材の準備をしているうちに、磯の香りに混じって台所から美味しい匂いがしてきます。
料理長が甲板に食事の準備をはじめると、お待ちかねの夕食の時間です。
漁場に着くまでに済ませる、仕事前の大切な食事がこの夕食です。
御飯に味噌汁、おかずが2~3種類用意されます。
皆、食欲は旺盛でご飯とおかずを山盛りにして、必ずおかわりをしていました。
カレーや肉料理など、濃い味付けの料理が漁師たちに好まれます。

食事が終ると、一斉に漁師たちは船底の仮眠室のベッドに潜り込みます。
これから朝にかけて重労働が待っていますので、寝られるうちに仮眠を取ります。
体が資本の仕事のため、体を休めることは大切な仕事の一つです。
ベッドで横になると漁師たちのいびきを掻き消すように、隣のエンジンルームから全速力で漁場に向かって走る甲高いエンジン音が仮眠室を覆います。
最初の頃はこのエンジン音がやかましく、全く寝付けませんでした。
しかし、人間は自分が置かれている環境に適応できるもので、初乗船から一週間もしないうちに私も大きないびきで寝ていました。
やがてエンジン音が低くなり、クラッチのバタンという音が度々聞こえて、船が減速してゆきます。
やがて停船して波間に漂い、静かにアイドリングのエンジン音がカラカラ響きます。
灯船が魚群を探知機で見つけて、集魚灯で魚を集めている頃でしょうか。
そろそろ、今日の仕事が開始します。

 

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