私が合羽に着替えたら…漁師体験記(その3)


仮眠室に仕事開始のベルが鳴ると、一斉に漁師たちが起きだします。
船底の仮眠室から這い出て甲板に上がると、灯船が集魚灯を海中に照らしています。
とっぷり夜の闇に染まった黒い海を、眩い光で照らされたエメラルド色の海面はとても幻想的で美しいものでした。

さてヘルメットを被り、合羽を羽織って作業開始です。
海面を照らしていないもう一隻の灯船に、網船が積んでいる網の先端(手綱と環綱)を渡します。
網船から網を受け取る船をレッコボートといいます。
「レッコ」とは「Let’s go」が語源で、日本語の会話の中でも馴染みがありますよね。
日常で使われている「さあ行こう」という意味以外に、「~から手を放す」という意味もあります。
つまり、旋網では投網をするとき網を船から解き放つという意味合いがあります。

操舵室と繋がっている甲板の上のスピーカーから、船長が「レッコ」と合図の声が聞こえると、網船が魚群を囲うように船が動き出します。
甲板ではガラガラガラと大きな音を立てて、網が夜の黒い海に溶け込んでゆきます。
浮き具がついている網の上側にはライトが仕込まれたブイがあります。
夜間の漁で網がどのような形になっているのか、長さの残りがどれくらいあるのか知らせるために必要です。
甲板員はブイが海中に放り込まれると「ひとつ」、「ふたつ」と大きな声で数え上げます。
概ね20分くらいかけて網を海中に投下します。

魚群を囲い終えてレッコボートに渡した網の先端を受け取ると、いよいよ揚げ縄開始です。
ウインチで環巻きワイヤーを慎重に締めて、海底の網を絞り魚が逃げられないようにする環底作業を行います。

環底作業が終ると揚げ縄作業に入りますが、網船は魚が入り重くなった網を引っ張っている状態です。
網船が引っ張っている網の反対側に運搬船が回り網を押さえます。
網船と運搬船はバランスが悪い状態になっており、バランスを崩して転覆してしまう旋網漁船事故で非常に多い状況です。
そのため、2隻の灯船が網船と運搬船を支える補助に入り、網と反対側の方向に航行してバランスを取ります。
網船の甲板には甲板員が横一列に並び、ネットホーラー(巻き揚げ機)から巻き取られクレーンで引っ張り上げた網を、人力で手繰り寄せて甲板に揚がった網を捌いて収納します。
浮き具がついた網上部を捌く人が2人、網中央部分に4人、網底のワイヤーに結ばれている丸環を外す人が1人、クレーン操作に1人という構成です。
網を手繰っていると、網に含んだ海水がざぶざぶと頭上より降ってきて、魚の鱗が顔にへばり付きます。
毎分16メートルの速さで網を揚げています。※1

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画像出典元:http://ameblo.jp/sozo/

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