夏の魚介に海鞘があるのはご存じだろうか。北海道や東北地方では食用にされています。一見植物のように見えますが実は動物なのです。
海鞘は晩秋の11月から翌春にかけて産卵期に入ります。漁期は4~8月にかけて行われ、この時期が海鞘の旬になります。
ホヤの語源は寄生木(やどりぎ)の「ほや(寄生)に由来するようです。岩に付着したまま動かない姿が、ヤドリギが根を張る姿に似ていることから、「ほや(寄生)」と言われるようになったのです。
海鞘は外見からは何の仲間か分かりづらいですね。海鞘は脊索動物門に属しています。脊索とは脊椎骨のことで、背骨の原型です。背中にあって体を支える筋ですね。
脊索が進化すると脊椎骨になります。人間の持つ背骨です。海鞘は骨を持たない無脊椎動物ですが、脊椎動物の一歩手前にいるのです。
海鞘の近縁の生き物から脊椎動物が進化したと考えられます。最初の脊椎動物が魚というわけです。
食用の海鞘には脊椎が見当たりません。海鞘は成体になると脊椎がなくなるのです。幼生の海鞘だけが脊索を持っています。
海鞘は幼生と成体では姿かたち、生活ぶりも全く違ってきます。幼生はカエルのオタマジャクシとそっくりの形です。食べ物は獲らずにひたすら泳いでいます。
泳ぎ続けるわけは、成体になった時、暮らしやすい場所を探すために泳ぐのです。幼生の期間はただそのためだけにあるのです。
成体になれば海底の岩などにくっついたまま移動しません。体に海水を吸い込んで、有機物を濾しとって、食料にします。牡蠣やアサリに似た生活です。
日本ではマボヤとアカボヤが食用になります。古くから海鞘の食用は行われており、東北地方の流通が多く、宮城県の石巻漁港の水揚げ量は一番です。北海道でも食用としての流通が盛んです。酒の肴として一般に愛されています。
海鞘は鮮度がいいものはワタと呼ばれる肝臓や腸なども好んで食べているようですが、東京や関西に出荷されてきたころは鮮度が落ちており、独特の臭いがきつくなるため、海鞘を嫌う人も多くいるようです。
海鞘は独特の風味があり、酒の肴として好まれており、刺身・酢の物・焼き物・フライなどに調理されたり、塩辛・干物などに加工されます。このわたと一緒に塩辛にしたものを莫久来(ばくらい)と言います。
海鞘の料理法を簡単に紹介します。
・頭部の2つの突起を切り落とします。
・切り落としたところから縦に包丁を入れ、殻を切り開く。
・殻を開いて、指でオレンジ色の身を取り出す。
・身を裏返し、黒い内臓を取り除く。
・袋状になっている腸に包丁を入れ、内容物を水で洗い流す。
・身全体を水できれいに洗い、食べやすいサイズに切って食べます。
海鞘に含まれる栄養成分
・海鞘は動物性蛋白質の貴重な供給源です。
・海鞘はミネラルが豊富。リン・鉄・亜鉛などが多く含まれています。
・ビタミンEが豊富。脂溶性で強い抗酸化作用があり、活性酸素を抑え、不飽和脂肪酸の酸化を防ぐ働きがあるので、動脈硬化や心筋梗塞など生活習慣病の予防に役立ちます。
・ビタミンB12は水溶性ビタミンの一種で、細胞の生成に影響し、血液の生成にもかかわる大切なビタミンです。野菜や果物にはほとんど含まれていないため、魚介から摂取する必要があるのです。
「酒に海鞘 火の気なき炉に 顔寄せあひ」 石川桂郎
「朝市の 露台の下に 海鞘のぞく」 松崎鉄之助
「海鞘噛んで 牧に畑に 雨が降る」 飯田蛇笏
「着きてすぐ 海鞘もてなさる 口涼し」 野沢節子
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