前回では採卵で使用する親貝の買い付けをして漁船などで運搬する話でした。
ところで日本全国の水産試験場や栽培漁業センターは必ず海岸沿いにあります。
最大の理由は、飼育で利用する海水を常に供給できるからです。
施設によっては事業場の沖合に生け簀を作り、そこで飼育をしているケースもあります。
沖合に取水口を設け、取り込まれた海水はポンプでくみ上げられて、場内の様々な施設に行き届いています。
また初期飼育がセンシティブな魚種を飼育する施設には、砂利やアンスラサイトというろ過材を通したろ過水の利用や、紫外線を照射して殺菌された海水が利用されています。
他に、放流や母体となる魚介類の買い付けなど漁船による運搬ができる利点もあります。
漁船で運搬されて、無事に事業場に到着したトコブシ親貝は、日が差さない涼しい場所に設置されている水槽で畜養をします。
餌は昆布かワカメを与えます。
夏が近づくにつれて、水温が上がると摂餌量が急激に増えだします。
餌の量や食べ残し、活力や肉の付き具合など日々観察を続けます。
そして、親貝の飼育管理をしながら進める作業が幾つかあります。
採卵してふ化した稚貝を飼育する水槽の準備です。
初期飼育にあたり、昆布など大きな繊維の餌が食べられない稚貝は目に見えない小さな珪藻(ケイソウ)を主食にします。
その珪藻の準備をしなければなりません。
珪藻は45センチほどのトタン状のポリカーボネイト波板に付着させます。※1
貝の生産量によりますが、数千枚規模の波板を必要とします。
ポリカーボネイト波板は10枚ワンセットを1ロットにして、必要数量プラス予備分作成をします。※2
この作業は採卵の二か月前、真夏に行います。
蝉の音を聞きながらこの作業をしていると、トコブシ種苗生産が本格的に始まることに気が引き締まる思いです。
作成したポリカーボネイト波板のロットは屋外の大型水槽に集約されます。
水槽の上に日の光を65%遮光できる遮光幕を被せ、大型水槽へ海水を2週間以上に渡ってかけ流します。※3
遮光幕が必要な理由、日の光をダイレクトに受けながら海水をかけ流していると、波板上部に大型の藻草が付着します。
大型の藻草は初期飼育の稚貝が食べられない餌であり、それ以外にもこの藻草によって波板下部に日の光が当たらなくなり珪藻の付着にムラができてしまいます。
そのため、遮光幕で日の光が入る量をコントロールします。
海水のかけ流しを始めてから一週間ほどで、波板に薄っすらと珪藻が付着しているのが確認できます。
二週間をすぎるとしっかり茶色に変色をしており、顕微鏡で観察すると様々な種類の小型珪藻が付着していることが確認できます。
アワビやトコブシが好んで食べる珪藻はウルベラと呼ばれるものです。※4
※1画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/
※2画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/
※3画像出典元:http://blogs.yahoo.co.jp/isyuudannji/
※4画像出典元:https://www.kahaku.go.jp/
トップ画像出典元:http://tsukiyonobanni.at.webry.info/