前回は幼生のふ化から摂餌開始までのお話でした。
稚貝が波板に付着している珪藻を食べる量は、成長するにつれて比例します。
飼育中は常に海水をかけ流しているので波板に珪藻が付きますが、次第に稚貝の摂餌量に追い付かなくなってきます。
少し気を抜いた瞬間に、波板に付着していた珪藻が全てなくなり、つんつるてんという事態が発生することが多々あります。
生産担当者が出勤して水槽を観察したとき、この状態の波板を見ると非常に青ざめます。
慢性的に餌が不足すると成長不足は勿論、最悪餓死してしまいます。
日々常に観察を続け、餌が不足しそうな場合は予備で珪藻付けしたカセットを差し込み、餌のある波板へ稚貝を誘導します。※1
波板に付着したときはゴマ粒ほどの大きさだった幼生が、ふ化後2か月を経過すると5ミリ以上に成長して、小さいながらも成貝と同じ体の構造になります。※2
稚貝が匍匐して、珪藻を舐めながら摂餌していることを観察できます。
毎週稚貝の殻長を測定しますが、この頃になると個体間の成長差が見られます。
この成長差は波板に付着している貝の密度、摂餌量で生じます。
飼育後3か月を経過すると平均殻長は7ミリ、大きい個体は1センチまで達しています。
この時期を目安に波板から貝を剥離して、平面飼育に切り替わります。
麻酔(安全のため食用添加アルコール)が添加された海水を張った水槽に、稚貝が付着した波板カセットを投入します。※3
麻酔が効いた稚貝は波板から剥がれます。
剥がれた稚貝は、500×1000ミリくらいの大きさの「シェルター」と呼ばれる吸着器を敷き詰めた水槽に戻します。※4
シェルターとは大型の山が折り込んでいる黒いプラスチック板で、夜行性のトコブシは日中、シェルターの内側に潜っています。
麻酔から覚めた稚貝は、シェルターの内側へ素早く潜り込みます。
この状態が「平面飼育」と呼ばれる状態です。
平面飼育に切り替わると、餌は配合飼料を与え、夕方になったらシェルターの上部に配合飼料を撒きます。※5
夜間、水槽を観察するとシェルターの内側から出てきた多数の稚貝が摂餌しています。
シェルターの上の食べ残しなど摂餌状況や、稚貝の活力を観察することが大変重要になります。
平面飼育になると、疾病などの理由以外で歩留まりが急激に落ちることがなくなるので、生産担当者が少し安心できる瞬間です。
冬場は海水温が低いので摂餌量が落ちますが、春先が近づくにつれ海水温が上がると再び稚貝の摂餌量が増加します。
※1画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/e/
※2画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/e/
※3画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/e/
※4画像出典元:http://blog.goo.ne.jp/kanagawa-sfa/e/
※5画像出典元:http://ebitabreed.com/
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