九州の某県では1970年代半ばより、栽培漁業機関で人工生産したマダイ種苗を県内全域の海で放流しています。
放流事業を開始して暫くは、県内のマダイの全水揚げ量に対する放流魚の割合が5割以上という数字で、放流効果があったことが裏付けられました。
しかし2000年中盤以降放流魚の割合は徐々に減ってゆき、最近では放流魚が1割に満たないこともあります。
一般的に種苗を放流する大きさは「自然界でより多く生き残れるか」と「育てるコスト」を比較考慮して、放流の最大の効果が期待出来る大きさを決定します。
放流時の種苗サイズが大きいと自然界での高い生き残り可能性が期待されますが、その一方で経費など費用が多く掛かります。
種苗サイズを小さくすると自然界の生き残りは低くなりますが、大型サイズの種苗を育成したときと同じ費用でも放流尾数を増やすことができるメリットがあります。
この栽培漁業機関で生産するマダイは放流開始時よりも生産技術が向上してより品質が高いものになっていたのですが、では何故放流効果が減少してしまったのでしょうか。
卵からふ化した仔魚が、親と同じ形になる全長2~3cmの稚魚期まで育てる種苗生産期を過ぎると、今度は放流サイズまで育成する中間育成期に入ります。
1970年代の種苗生産開始から2000年代初頭までは中間育成期は海上に生け簀を張って、この中で飼育をしていましたが、省力化・コスト削減のため陸上大型水槽での飼育に切り替えました。
水揚げデータを見る限りでは、この中間育成施設切り替えにより放流効果が減っていることを示していましたが、その因果関係を立証するとき意外なところにヒントがあったのです。
海上生け簀で育った種苗は、自分が育った環境から大きく異なる環境に置かれたとき、体を横にして胸鰭だけを微かに動かして様子を伺います。
これを“横臥行動”といい、魚が周囲に警戒しているとき示す行動です。
そのほかにも体色に縦縞が入り、強い周囲警戒をする個体も多く見られました。
これらの魚が自然界に放流されたとき、速やかに潜行して海底にたどり着き、岩陰などに隠れて周囲に注意を払っています。
一方、陸上施設で育った種苗は異なる環境に置かれたとき、殆どの個体が“横臥行動”や“縦縞模様”を示さず泳ぎ続けていました。
つまり警戒心が弱いので放流後も漫然と遊泳行動を取り続けて、外敵に襲われてしまうのでした。
陸上施設では飼育の省力化に繋がり、種苗の生残歩留まりが高まる一方で、警戒心が薄くなるという性格の違いが発生してしまったのです。
飼育環境によって魚の性格が異なるというおはなしでした。
画像出典元:http://cheap-delicious.hatenablog.com/entry/2015/03/16/172816
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