サケの餌にDHA・EPA加え、母川回帰率アップ


年々減少していたサケの漁獲に、明るい兆し。北海道大学や岩手大学では4年かけてサケの回帰率向上に取り組んできました。

サクラマスの稚魚にDHAやEPA、αリノレン酸を配合した餌を与え、母川への回帰率を調べ、回帰率向上の確率を高めることに成功しました。

両大学では3,4年後には実用化にこぎつけ、サケ・マスの漁獲量の安定化に貢献したいと語っています。

サケ・マスが天然産卵するには、汚染されていない河川で、川床からは湧水が出ている場所が必要になります。しかしダム建設や河川の改修工事などで、自然のままの地形や環境を保つことは困難になってきました。

従来の天然産卵が自然環境に影響されるのに比べると、人工ふ化場では冬場でも温度変化の少ない地下水を使用し、管理された中で孵化するため、95%の高い比率で孵化に成功しています。

自然産卵による孵化率は30~40%といわれ、孵化しても外敵にさらされた環境で稚魚に成長します。反面、養殖場では外敵がいないため、稚魚は安心して餌を食べ、育っていきます。

独り立ちできるようになったサクラマスの稚魚は、人工ふ化場から川に放流されます。こうして放流されたサクラマスは、岩手県では天然のサクラマスの回帰率が0,5%に対し、人工孵化されたサクラマスは4%の回帰率であり、実に8倍もの開きがありました。

現在ではこのように管理されなければサケは守ることができません。サケ・マス資源を増やすためにも人工ふ化場の果たす役割は重要な存在になっています。

話は少し遡りますが、江戸時代から貴重なサケ資源の保護はなされていたようです。1700年代にはすでに経験則から得た知識ですが、天然のサケの産卵を保護した「種川制度」がありました。

サケ資源が減少したのは明治に入ってからのことです。乱獲が原因です。明治10年には岩手県下の著名な川にはサケの捕獲を禁止。明治42年には岩手県漁業取締規則を制定し、大正に入って今日の特別採捕の基礎が出来上がりました。

そして今日、この実験によって、科学的に回帰率を向上させることが可能になったのです。
北大の上田宏特任教授(魚類生理学)らは、この特殊な餌を開発しました。

2013年5月に1歳半のサクラマスの稚魚にこの餌を与え、岩手県野田村の安家(あっか)川の河口から数百メートル上流で1500匹放流し、翌年8月~10月の回帰を測定しました。

安家川に帰ってきたサクラマスは5匹でした。翌年14年の実験で1274匹放流し、7匹が帰ってきました。

岩手県が安家川で1996年から04年に調べた回帰率は、0,001~0,12%でした。昨年(14年)では0,55%の回帰率であり、確率は3倍以上あがっていました。

特殊な餌による稚魚の脳を調べてみると、臭いの記憶に関するたんぱく質量が、他の魚と比べ3倍になっていたようです。

DHAやEPAはサプリメントとして「頭がよくなる」と謳われていますが、上田さんの実験では、「刷り込み」といわれる特殊な記憶であり、人間の学習とは違うと、釘を刺しています。

3,4年先の実用化が待ち望まれますね。サケ・マスの漁場はロシアなどによって狭められています。この実験によって母川回帰率が向上すれば、漁獲量も安定するのではないでしょうか。
(出典元 朝日新聞デジタル 2015年10月27日)

画像出典元:http://blog.livedoor.jp/harikiwi/

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