アワビ・トコブシ種苗生産…放流、自然界へ放ちます (その7)


放流前日に種苗は野菜ネットに種苗を小分けして、野菜バスケットの中に入れて水槽に安置します。※1
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小分けする理由は運搬の効率化以外に、種苗受け入れ先は放流場所を数か所に分けて行うからです。
翌日の早朝に受け入れ先がチャーターした漁船が到着するので、海水が張っている魚槽に種苗を小分けした野菜かごを入れ込んで出荷します。
この放流は市町村もしくは県の漁業振興事業の一環で行うため、行政の放流立会人が必要になります。
大体、生産事業所か自治体職員が立会人として漁船に乗り込み、日付と放流内容が記入している板と放流の状況の撮影を行います。※2
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遠隔地の場合は航空機で種苗を送る方法があります。
無水状態にした種苗をビニール袋に入れて酸素を充填します。
そのビニール袋を冷却用の氷と共に発泡スチロール箱に入れます。
宅配便では当日放流が出来ないので空港の貨物受付に持ち込み、予め手配している便に乗せる様手続きをします。
到着空港では受け入れ先の関係者が待機しており、航空機が到着して種苗を受け取った後、直ちに放流場所へ向かいます。
無水状態の輸送は概ね6時間以内を目安にしています。
無水状態の試験を行ったことがありますが、貝は、水切り、酸素充填、冷却の処置をしっかり施していれば、12時間経過しても全く活力に問題がありません。
しかし、24時間を経過すると死亡している個体も見られました。

放流個所は岩場が主ですが、漁協などが浅瀬の岩場にアワビやトコブシが生活できる造成された藻場で行う場合もあります。※3
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貝に限らず、種苗の放流場所は非常に気を使います。
魚の場合、今までの環境から大きく変わり、環境に適応できるまでパニックを起こすこともあります。
また、自然界のため外敵の危機に晒されることがあるのです。
昔、貝を沖合で放流したら魚が寄ってきて、水底にたどり着くまでに捕食されてしまったという、笑うに笑えない話もあったそうです。

自然界の海に放流して、岩の合間にすっと隠れてゆくアワビやトコブシの姿を見るのが、一番生産担当者が嬉しい瞬間です。
自然界で元気に成長してほしいと願わずにはおれません。
それと同時に今年も無事に種苗生産が終えたことに胸をなで下ろします。

カレンダーを見るともう7月、ということは次年度の種苗生産の準備に取り掛からなければなりません。

種苗生産は手法が確立されていても、自然と生き物が主体の仕事です。
昨年は上手くいったからと思っていても、思わぬところで生存率の大幅な低下など、気を抜くことができません。
しかし、そこが種苗生産の醍醐味でもあるのです。

7話に渡ってアワビ・トコブシの栽培漁業についてお話しいたしました。
もし、アワビやトコブシを食すとき、美味しさ以外にも種苗生産に携わる人たちのことを思い出してくれたら幸いです。

※1画像出典元:http://blogs.yahoo.co.jp/tdcmiyake/
※2画像出典元:http://atamii.jp/today/
※3画像出典元:http://www.pref.tottori.lg.jp/
トップ画像出典元:http://okky49.blogspot.jp/

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