漁業無線(人命救助の橋渡し) その2


平成25年3月11日、日本周辺における観測史上最大規模の東日本大震災が発生した日の釜石市漁業無線局での出来事です。
沿岸にある釜石漁業無線局の窓の外では、津波が襲来により多くの船が津波に飲み込まれ、集落が流されてゆく姿を目の当たりにしていました。
局内は無線局職員、命からがら避難をした近隣の高校生や住民で溢れかえっていました。
この局内にいる人々の無事と救援要請をする必要がありましたが、固定電話や携帯電話、インターネットなどの通信インフラは寸断されています。
無線局は自家発電により、最低限の電力は確保されているため無線の使用は可能です。
そこで無線局局長の東谷伝氏はひとつの決断をします。
「誰か、聞いていませんか?」
東谷氏がマイクを握り無線に語りかけました。
この電波は、本来ならば遭難した船舶が発信する世界共通の「国際遭難周波数」(2182KHz)で、夜間は電波が高層の電離層に反射して広がるため、何処かで誰かが必ず聞いている筈です。
しかし、この国際遭難周波数による送受信は船舶遭難事故以外で使用すると、電波法違反に問われます。
東谷氏は処分を覚悟で、日本や世界の無線施設や航行船舶に向けて送信を開始したのです。
「こちらは岩手県庁と通話ができます」
これを聞いた千葉県御宿町の同県漁業無線局は、東谷局長と同じく処分覚悟で応答したのでした。
そして、御宿漁業無線局の他に茨城県ひたちなか市の水産試験場漁業無線局も応答をしました。
東谷局長は無線局周辺の被害状況を伝え、今局内に避難している人々の名前を読み上げ始めました。
生死に関わる情報のため、間違いは絶対に許されません。
そのため、遠洋漁船との交信で使用する無線電話通信和文通話表に基づいて、確実に一文字ずつ名前を読み上げ、通信は約3時間に及び、約100人の生存を伝えました。
その後、青森県八戸市や宮崎県日南市、海上保安庁の巡視船や海上自衛隊の航空機までが漁業無線を使って釜石市漁業無線局に連絡を取り続け、岩手県庁へ情報の橋渡しをしました。
津波から逃げて沖合に停泊している岩手県の漁業調査船「岩手丸」は衛星携帯電話を搭載しているので、釜石市漁業無線局と漁業無線でやりとりした後、県庁へ衛星電話で連絡が取れるようになりました。
また遠く離れた海外でも、この無線を傍受した国々は釜石市の連絡を邪魔しない様に、緊急連絡以外の無線連絡を控えることにしました。
総務省は非常通信として漁業無線局同士の通信を認め、釜石漁業無線局は携帯電話が復旧するまでの間、釜石市の救援要請を県に伝え続けたのです。
海に生きる人たちは、国籍を超えても人命尊重の精神が染みついています。
便利な衛星船舶電話やインターネットが普及した現在でも漁業無線を残しており、海の世界では安全に対するバックアップを取っています。
この考え方を今後の防災対策に生かすべきだ、と東谷局長は主張しています。
画像出典元:http://blogs.yahoo.co.jp/toppo_town_radio/8341452.html

 

 

漁業無線(Radio GA GA… 沖と陸を結ぶ懸け橋 )その1

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