ずいぶん昔の話です。蝦蛄の美味しさにはまってしまいました。岡山県日生(ひなせ)にある知人の家で、ザルで塩茹でにしたシャコを腹いっぱいご馳走になりました。
塩茹でされた大量の蝦蛄は、湯気を立てながらが運ばれてきました。甲殻類独特の食欲をそそる美味しい匂いが鼻をくすぐります。
蝦蛄の殻の剥き方を教わり、指先を鋭い棘で傷つけながらも、おいしさのために一心不乱に食べ続けました。
殻を剥くのももどかしいほど、食べ続けました。知人の奥さんは蝦蛄を切らすことなく、湯がきたてを供給してくれました。
その時は蝦蛄の値段など知る由もなかったのですが、もし、市場で買ったのなら大変な金額だったのではないかと、いまさらながらそのご厚意に感謝しています。
蝦蛄の旬は5~7月にかけてですが、産卵期が初夏であり、シャコの卵巣がこれまた珍味で、「カツブシ」と呼ばれて珍重されています。この時期のメスの値段は格別に高くなります。
シャコは北海道以南の内湾や内海の砂泥底に生息し、イソメやゴカイ、他の甲殻類や魚を捕食します。蝦蛄の捕脚のパンチ力は強烈で、カニの甲羅や貝殻などを叩き割って捕食します。
青森や北陸3県、瀬戸内海などが漁獲量の多い地域です。
市場には茹でて殻をむいたものが流通しており、活けのままの流通は少ないようです。
凶暴な海のハンター、シャコの爪を侮るなかれ。
・シャコの爪は2本しかありませんが、味はカニの肉のように美味しい食材です。とても珍重されているようです。
・生きたシャコに触るときは細心の注意が必要です。蝦蛄の爪はカマキリのような形をしており、獲物を捕らえるためのものです。
その爪で巣穴を横切るエビや魚を一瞬でとらえてしまいます。とても強力な爪で、素手でつかもうとすると怪我をして血まみれになってしまいます。
・またそのパンチ力は強烈で、爪を割られた漁師さんもいるくらいです。生きたシャコを素手で触ることは避けてください。
茹でたシャコであっても殻を剥くとき怪我をすることはたびたびあります。
シャコは生きていても死んでいても触るときには注意が必要になりますね。
この記事を書きながらスーパーマーケットの鮮魚コーナーを見渡したのですが、シャコの姿が見えません。デパートでは販売されていると聞きました。
寿司店では蝦蛄が食べられるようですが、高級食材として庶民の口には届かなくなってしまったのでしょうか。日生(ひなせ)の蝦蛄が忘れられません。
「先生の 馬に似し歯や 蝦蛄を食ふ」 吉岡禅寺洞
「句会後の 虫押さへにと 蝦蛄茹でる」 野田ゆたか
「蝦蛄といふ 禍々しくて 旨きもの」 長谷川櫂
「おほいなる 蝦蛄の鎧の うすみどり」 見学御舟