黒鯛(クロダイ)


太公望には黒鯛はあこがれの的です。釣り人を魅了するのは、繊細で用心深く、神経質で臆病で、そのうえ目がいいときているから、釣り糸と釣針には極端に敏感な黒鯛です。

黒鯛は一気にエサに食いつくのではなく、エサを銜えて微妙な当たりがありますが、用心の上に用心して、ついに食いついた時、釣り人の腕に強力な引きが伝わるのです。これをばらさずに釣り上げるのが太公望の醍醐味なのです。

黒鯛の旬は5~10月です。夏の真鯛はまずいといわれますが、黒鯛は夏が美味い魚といわれます。

黒鯛は地方によって呼び名が違います。関西では黒鯛という言葉は使わずに、「チヌ」と呼びます。和歌山では「カイズ」。三重では「ツエ」。静岡では「マナジ」。伊勢周辺では「ナベワタリ」。東京では「チンチン」。北陸では「カワダイ」と呼ばれています。

奄美大島と沖縄以外の日本各地に生息し、海底が砂泥になった内湾の浅い場所に棲んでいます。汽水域や河口などでエビやカニ、貝や海藻などを食べます。

夜になると海面に上がってきてエサを物色する夜行性の魚です。黒鯛釣りは夜釣りのほうが効果があるのはそのためといわれます。

黒鯛の産卵時期は春から初夏です。黒鯛は性転換をします。精巣と卵巣の両方を持って生まれてきますが、精巣のほうが発達するため生後2年までは全部がオスの状態です。

卵巣が発達して2~3年までは大半が両性の状態のようです。3年で1部がオスになり、4年で性の分化が起きて雌雄が決定します。そしてメスが圧倒的に多くなるのです。不思議な魚ですね。

太公望からは愛される黒鯛でも、味は別物です。苦労して釣り上げた黒鯛でも、スーパーの店頭に並んだ時、その安値に驚きます。つまり食材としての評価は低いのです。

料理人もあまりかかわりたくないというのが黒鯛のようです。新鮮なものなら刺身にしてもいいですが、その身は猛烈な速さで劣化してしまいます。

日本全国に生息していますが、釣りのための魚としては1級品で大変な人気がありますが、こと食材としての黒鯛はあまり歓迎されない魚のようです。

しかし黒鯛の旬は夏です。魚屋の店頭に並ぶ黒鯛は、真鯛と並んでいても決して見劣りするものではありません。しかし値段が極端に安いのです。実際に食べた人の話では、塩焼きにしておいしくいただいたとのお話でした。

まずいという話と、おいしいという話、どちらが正しいのでしょう。みなさんも一度食べて確認してみてください。

「黒鯛釣りに 虹たつ濤の しづまりぬ」     西嶋麦南
「ちぬ釣りの 月光竿を つたひくる」      米沢吾亦紅

画像出典元:http://familie.naganoblog.jp

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