名前はあまり知られていませんが、我々の生活に深く入り込んでいる魚というのが案外あったりします。
枯渇するおそれがある水産資源の代わりに、従来の魚に似ている味わいのものを提供する「代用魚」なんかはその一例ではないでしょうか。
代用魚で知られているものといえばマグロの代わりにアカマンボウ、マダイはティラピア、クルマエビはウシエビなどで、主に切り身など加工された状態で流通されています。
排他的経済水域が本格的に適用された1980年代後半より、主に外食産業にて代用魚が導入されており、提供メニューの安定化やコスト削減に一役買っていました。
しかし近年では実際に出て来る魚とは違う魚が提供されているという、いわゆる「食品偽装」の問題に繋がっており、使用者には適正な使用が求められています。
さて前置きが長くなってしまいましたが、スーパーやお弁当屋の惣菜や冷凍白身フライなどで「白身魚のフライ」とだけタグに掲げてパック販売されていますが、あれって何の魚だと思います?
実はベトナムが原産の「バサ」というパンガシウス科の淡水魚なのです。
インドシナのメコン川、チャオプラヤ川流域が原産地のナマズの一種で、ベトナムでは重要な食用魚として「チャー」という名前で扱われており国内消費は勿論、海外の需要も非常に高い魚です。
イギリスではタラの安価な代用魚として広く販売されており、名物フィッシュアンドチップスの原材料としても扱われていますが、バサは輸入にあたり厳しいEU規制下にあります。
そして不正にバサを「タラ」として販売・製造していたフィッシュアンドチップスの業者が全体の半分にも達する事態が暴かれ、訴追など行政処分を受けた業者が幾つかあります。
またアメリカでは2002年にベトナムの貿易業者がアメリカに向けてナマズを不当廉売していたことが問題となり、翌年にはアメリカ議会で輸入魚の関税導入と“ナマズ”と言う名前の魚は輸入禁止となりました。
それを受けてベトナムでは名前を変えて“ナマズではない魚”として輸出をしています。
アメリカの伝統的なナマズ団体の圧力があったという背景もありますが、皮肉なことにアメリカナマズよりもバサの方が美味しいという研究結果があるのです。
そして気になるお味ですが淡水魚とは思えない臭みがない素直な味わい、脂のほのかな甘さがとても美味しさで、また食感もふんわりと柔らかいのが特徴、フライやソテー、ムニエルにしたとき身の旨さが発揮します。
日本の大手スーパーでは時折バサの切り身が鮮魚で販売されています。
今度見かけたら是非試してみたいと思うのです。