地球温暖化が原因で日本の海の魚がオスだらけになる!?―海水温の上昇と魚の性決定との関係性について―

皆さま、初めまして!うぉーらると申します!

私のことは“大学で生物を学ぶお魚好き”と認識していただければと思います(笑)

今回、こちらのサカマ図鑑にて記事を投稿させていただけるということで、依頼をいただいてから色々とテーマを考えてみました。

その中で自分らしさを出せるテーマとして、今回は

「生物学的視点から見た海の温暖化」

というテーマで記事を執筆することにしました。

誰にでも分かりやすい内容を心掛けましたので、物怖じせずにぜひご覧ください!

海の温暖化について

地球全体の平均気温が急激に上昇する現象である「地球温暖化」の影響が海にも及んでいるということは皆さまご存じだと思います。

実際に、日本近海の平均海面水温が100年間で約1.2℃も上昇していることが報告されています。

(世界全体では100年間で約0.56℃であり、日本近海の方が2倍も大きい。)

日本近海における、2021年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)の上昇率は、+1.19℃/100年です。 この上昇率は、世界全体で平均した海面水温の上昇率(+0.56℃/100年)よりも大きく、日本の気温の上昇率(+1.28℃/100年)と同程度の値です。

気象庁 | 海洋の健康診断表 海面水温の長期変化傾向(日本近海) (jma.go.jp)より引用

それでは、「海の温暖化」と聞いて、皆さまは何を思い浮かべますか?

1番に思い浮かんだのは“魚の生息域の変化”ではないでしょうか?

これまで北海道では漁獲されなかったブリが、海の温暖化により生息域が北上したことで漁獲されるようになった、などのニュースをよく見かけますよね。

海の温暖化と魚の生息域との関係性、これも十分に興味深い内容なのですが、よくある内容なので、

今回は他の影響として、「海の温暖化と魚の性決定との関係性」について説明していきたいと思います。

海の温暖化と魚の性決定との関係性について

魚の性別は何で決定される?

性別とは、生物学ではオスとメスとの区別のことを言います。

この区別がどのようにして生じるのか、皆さまご存じですか?

私たちヒトを含む脊椎動物では通常、遺伝子によって性別が決定されることが知られています。

もう少し詳しく説明すると、性別を決定する遺伝子を含む性染色体という特別な染色体があり、この組み合わせによって性別が決定されます。

例えばヒトの場合、X性染色体とY性染色体があり、XXの組み合わせではメスになり、XYの組み合わせではオスになります。

それでは、魚の性別も同じメカニズムで決定されるのかというと、答えは△です。

脊椎動物の中でも魚類などの変温動物においては、性染色体の組み合わせに加えて、周囲の温度によって性別が決定される種が知られています。

その代表的な種として“ヒラメ”がよく知られています。

それでは次に、水温によってヒラメの性別が変わることを示した実験をご紹介します。

ヒラメは水温で性別が変化する!?

ヒラメは人と同様にXY染色体による性決定が行われており,XXの場合はメス、XYの場合はオスになることが知られています。

さらに、人とは異なり温度依存的な性決定も行われており,ヒラメを飼育する温度を変えることによって性別が変化することが報告されています。

それを示すのが次のグラフです。

画像引用:Toshiya Yamaguchi et al., Cortisol Is Involved in Temperature-Dependent Sex Determination in the Japanese Flounder, Endocrinology, Volume 151, Issue 8, 1 August 2010, Pages 3900–3908, https://doi.org/10.1210/en.2010-0228

このグラフは、“性染色体による性決定ではXXでメスとなるはずのヒラメの幼魚”を18℃と27℃の異なる水温の水で飼育することで、性別に違いが表れるのかを調べた実験結果を示しています。

赤枠で囲んだ2つを見ていただきたいのですが、18℃の水で飼育した場合はメスのまま発生が進行する一方で,27℃の水で飼育した場合はオスに性別が転換するという結果となりました。

理由が気になった方も多いと思いますので、このメカニズムについて簡単にご説明します。

通常、XX性染色体を持つヒラメは女性ホルモンであるエストロゲンが体内で合成され、“メス”として性別が決定されます。

しかし、高水温環境ではストレスホルモンとして有名なコルチゾールの分泌量が増加し、これによりエストロゲンの合成経路が阻害されます。その結果、体内のエストロゲン合成量が減少し、“オス”として性別が決定されることとなります。

より詳しく知りたい方は、今回引用したこちらの論文をご覧ください。

https://doi.org/10.1210/en.2010-0228

海の温暖化により海水温が上昇した場合…?

それでは、海の温暖化により海水温が上昇した場合、ヒラメの性別はどう変化するのでしょうか?

ここまで読んでくださった方は答えを言わなくても分かりますよね。

海の温暖化により「性別がオスのヒラメが増加する=性別がメスのヒラメが減少する」ということが推測されます。

メスが減少するということは、次世代を生み出す“卵”が減少するということです。

卵が減少すれば次世代の個体数が減少し、それが繰り返されることで資源量が減少していくことが予測できます。

実際の海でこの性転換メカニズムが起こり得るのかどうかは分からないですが、上述したような実験結果が出ている以上、水産資源量の減少の原因の1つとして考慮すべき内容であると私は考えています。

まとめ

今回は「海水温の上昇と魚の性決定との関係性」というテーマでお届けしました。

まとめとしては、

「地球温暖化による海水温の上昇によって、本来はメスになるはずの魚(ヒラメ)がオスに性転換をしてしまい、最終的には資源量の減少に繋がることが推測される。」

という内容となります。

皆さま、ご理解いただけましたでしょうか?

また、面白い!と思っていただけましたでしょうか?

今回の内容の他にも、地球温暖化が海の生物に与え得る影響は数多く存在します。

それらについて、まずは“知る”ことが大切であると私は考えています。

今回の記事が、地球温暖化が海の生物に与える影響について知る・考えるきっかけとなったのならば幸いです。

それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました!

さようなら!

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