前回、モジャコ漁とはブリの稚魚を養殖のために捕獲することをお話ししました。
ブリの養殖を本格的に取り組んでいる漁港が、鹿児島県の薩摩半島の北端と天草下島に挟まれた長島という小さな島にあります。
この漁港は薄井漁港といい、出水郡長島町に存在します。
海岸線が長い長島周辺海域には小さな島が18島以上あり、狭い海峡に入り江が多数入り組み、東シナ海から流れる年間平均水温が19℃の冷たい海水の流れは速く、養殖業にとって好都合な環境です。
薄井漁港は東町漁協所属の1本釣り、磯建網、旋網、吾智網など沿岸操業の漁船基地になっており、イサキやハタ、ハモ、マダイ、メバル、カマス、アジ、サバなど豊富な近海魚や地ダコが水揚げされます。
東町漁協ではこの薄井漁港をブリ養殖本拠地として、他にアワビ、ヒオウギガイ、ナマコの養殖やアオサ栽培を行っています。
1966年(昭和41年)にブリ養殖試験を開始して、その2年後に本格的に養殖事業を立ち上げました。
現在、「鰤王」というブランドで日本全国に展開しており、ブリ養殖魚出荷陸揚げ金額は日本一を記録しています。
1985年(昭和60年)には鹿児島県漁連と鹿児島県、日本航空との合資会社を設立してアメリカへの輸出を開始、2003年(平成15年)には対EU輸出水産食品取り扱い施設と認定されてヨーロッパ諸国に輸出を行っています。
最近では中国方面の輸出を始めており、寿司や日本食の世界的なブームを受けてロシア、ベトナムへ販路を開拓しています。
東町漁協のブリ養殖技術や知見は全国的に有名であり、国内外から養殖、水産関係者の研修に訪れます。
多数の家族経営事業者が主体となって行っているブリ養殖を、東町漁協がモジャコ漁で入荷したブリ稚魚の選別管理、餌の調達、健康対策や出荷販売など、一括で養殖業務全般を管理して、高品質で均一化した商品を市場に送り出しています。
使用する飼料は東町漁協の養殖実績を研究して開発した、配合飼料と生餌、魚粉を混合したモイストペレットを使用しています。
そして、魚病防疫士、薬剤師など魚の健康状況や疾病防止を図る営魚指導部門の設置、鹿児島大学水産学部と共同で養殖場環境保全、飼料、添加剤などの研究を行っています。
1998年に東町漁協は、食の衛生管理が徹底されているHACCP認定を受けています。
HACCPとは、食品の製造・加工工程であらゆる段階で発生するおそれのある、微生物細菌汚染危害をあらかじめ分析して、分析結果によって製造過程のどの段階で対策を講じれば安全な製品が得ることができるかという重要管理点を定め、これを連続的に監視することで製品の安全を確保することができる衛生管理の手法です・。(註:厚生労働省抜粋)
飼育者情報や使用した餌、日々の飼育過程をデータベース化してトレーサビリティ・システムを運用して、消費者へ魚の履歴を提供しています。
東町漁協のブリ養殖の自信は、これまでの長い経験や実績、研究結果の現れなのです。
そして東町漁協では事業後継者の育成に力を入れており、青壮年部が主体になって放流など水産資源維持、地域奉仕、販売営業活動を行っています。
今後も高品質で美味しい東町のブリが、薄井漁港から世界中に巡ることでしょう