全国年間水揚げ量第5位を誇るヒラメは、平成2年に青森県の県魚に指定されました。
ヒラメは底魚ですので、延縄や底引き網、刺し網で漁獲されるのが一般的です。
青森県の八戸市は、ヒラメ漁が盛んな街で全国一位の水揚げ量の記録を保持しています。
八戸港を管理する八戸鮫浦漁業協同組合ではヒラメ資源の維持、増加のため稚魚の放流や、35センチ以下の個体は取らないなど漁獲サイズの自主規定を設定しています。
八戸鮫浦漁協のヒラメ水揚げは、主に小型船部会による刺し網漁でした。
刺し網漁は水揚げしたヒラメで死亡している個体が多いこと、操業中にも死亡している個体の鮮度落ちが進行してゆくので市場で販売するとき活魚と比べてかなり安値になってしまうこと、漁獲サイズ以下の個体を再放流できない課題点があり、資源的管理、漁業者所得が向上になかなか結び付きませんでした。
そして平成10年、漁港付近に多数の巨大クラゲが襲来したことで、刺し網漁は大きなダメージを受け、水揚げ量が0だったのです。
一方で、疑似餌を付けた糸を重しにした板(潜航板)を海底近くまで沈ませつつ、船の推進力で曳いてヒラメを釣り上げるヒラメ曳き釣りで漁を行っている船は、水揚げのダメージをほぼ受けずにいました。
小型船部会はこの先もこの海で漁業を続け、次世代に受け継ぐためにも刺し網に変わる漁に転換する必要があると決心し、部会内で話し合いが進められました。
ベテランも若手も忌憚ない意見が飛び交い、効率的で収益が上がるため「少なく獲って高く売る」漁法を模索してゆきます。
その結果、小型船部門でもヒラメ曳き釣り漁に転換することが決定しました。
これまで刺し網で漁をしていた小型船部会の会員は、誰も曳き釣り漁の経験がありませんでしたが、市販品や中古品の漁具を手に入れて漁港周辺で曳き釣り漁の練習を始めました。
練習を重ねて本操業後を迎えましたが、風向きや波の高さ、潮流に応じて潜航板を入れるタイミングや最適な位置を保つことに苦慮しましたが、会員たちは水深による延縄の長さ、曳き船の速度などお互い情報を共有しあいます。
当初は小さなヒラメしか揚がらなかったものの、会員のスキルが向上するうちに大きなヒラメを釣れ、漁獲量の増加に至りました。
また活きたままのヒラメが揚がる様になったので、35センチ未満の小さな個体は海に再放流することも可能になりました。
そして更に「少なく獲って高く売る」ことを実践します。
高く売るために求められる付加価値、それは活〆の方法でした。
築地市場で市場調査を行い、青森県と共同で鮮度の高さを長時間継続させる活〆の方法を研究します。
通常の活〆は3時間で完全に死後硬直してしまいますが、魚にストレスを与えないことが死後硬直の時間が遅らせることを突き止めます。
獲った魚を冷海水に畜養した後に活〆した場合、48時間は魚の鮮度が保たれます。
そのため東京の築地市場に運ばれたときも、まだヒラメの身は鮮度が十分に保たれており、仲買人たちの評判はすこぶる良いのです。
刺し網漁で行っていたときよりも2倍の魚価が付くようになりました。
2011年3月の東日本大震災で八戸港は津波被害を受けましたが、復興を果たしています。