ヒラメはいつ平たい魚になるのでしょう


先日、4回に渡り魚類の初期種苗生産についてお話しました。
ふ化したての仔魚は、シオミズツボワムシやワムシといった動物プランクトンを摂餌して成長してゆきます。

さて、ヒラメの初期種苗生産について少し触れましたが、ふ化したてのヒラメ仔魚は普通の魚の仔魚と同じような形状で水槽内を泳いでいます。※1
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全く、成魚のヒラメの姿には程遠いいでたちです。
ヒラメやカレイなど体が押し潰されたように平たく側扁して、且つ体の片側のみ両眼がある魚類を異体類といいます。

ふ化後直後のヒラメの仔魚は腸が形成される部位に卵黄が存在している油球があり、卵黄の栄養を吸収しながら水中を漂います。
概ね3日後には体長が4㎜弱になると、卵黄があった油球がしぼんで腸管が形成され、目が黒くなって口が開きます。
前回、仔魚の口が開くことを開口と呼ぶことをお話しましたが、飼育水槽の仔魚をサンプリングして殆どが開口していることが認められると、動物プランクトンのシオミズツボワムシを給餌します。
仔魚はワムシが餌であることをすぐに認知して、食べ始めると自力で水中を泳ぎながらワムシを摂餌します。
成長のスピードが早くなるのでワムシの摂餌量が爆発的に増えます。

ふ化後2週間を経過するころには8㎜に達します。
ワムシのみでは給餌が追い付かないのでホウネンエビの仲間の小型甲殻類、アルテミアやカイアシ類のコペポーダを追加給餌します。
健全な種苗は常に餌を食べ続けて日に日に体が大きくなってゆき、腸管の壁や、ヒレの形がしっかり形成されてゆくことが確認できます。

ふ化後1か月近くなると、仔魚の魚体に変化が生じます。
体長は12㎜以上になり、背、尾、胸のヒレが完全に独立して成形されています。
頭の上に長いトサカがありますが、これは鰭条(きじょう)と呼ばれるもので、浮力を保ちながら水中を泳げるようにするものなのです。
そして最大の体の変化、両眼が頭部の左側に移動しているのがわかります。※2
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更に数日が経過して、ふ化から1か月以上(日齢35日程度)になると、全長は15㎜以上に達します。
両眼は完全に頭部の左側に移行して、小さいながらも成魚と変わらぬ形になってきました。
ふ化以降、水中を泳ぎ続けていましたが生態が変わり、水槽の底にとどまります。
これを着底といい、変態が完了したことを意味します。※3
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着底後は初期仔魚の飼育水槽から、底の浅い着底魚飼育水槽へと飼育がかわります。
この時期以降の飼育は中間育成と呼びます。
餌もワムシなど動物プランクトンから、配合飼料に切り替わります。
体長が3センチに達すると、稚魚の形や習性、行動は完全に成魚と変わらなくなります。
個体によって成長差が著しく異なり、大きな個体が小さな個体を共食いするので、こまめに種苗のサイズごとに飼育水槽を振り分ける選別作業を行います。※4
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私が所属していた種苗生産機関は1月に種苗生産を始めて、6月以降体長が12㎝以上に達した個体から随時、県内の沿岸で種苗放流を行っていました。
放流サイズに達する頃になると魚も知恵を持っており、水槽の際に人が立つと配合を撒き餌するものと思い、大量のヒラメがゆらりと人がいる方へ向かってゆきます。※5
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そんな姿が可愛く、餌の時間ではないけれどおやつ代わりに配合を撒くと、大量のヒラメが水槽の水面を跳ね飛びながら食べていました。

放流に出荷してヒラメがいなくなった水槽を見ると、我が子が嫁いだ父親のような気分になったりも…。
種苗が自然の環境で元気に育つことを祈っています。

※1〜5画像出典元:https://www.pref.chiba.lg.jp/lab-suisan/suisan/soshiki/futtsu/hirame.html

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