寒い冬にストーブで炙った魚のヒレを燗酒に入れる「ヒレ酒」、酒好きには堪らない飲み方ですね。
元々ヒレ酒は第二次大戦後のコメ不足の時代、米と米麹で作ったもろみを清酒と同じ濃度に水で希釈した醸造アルコールを入れて糖類や酸味料、グルタミン酸ソーダで味付けした“三倍増醸清酒”を少しでも美味しくして飲みたいという考えで生み出されたものらしいです。
そんな出来の悪い日本酒もどきでも、焼いたヒレを入れるとたちまちヒレの旨みと酒のコク強くなり「二級酒でも特級酒に変わる」と言われていたものでした。
高品質の日本酒が当たり前になった現代でも、ヒレ酒は独特の風味で根強い人気があります。
さて干したヒレを炙ったものを熱燗で注ぐと、たちまちお酒が琥珀色に変わって香りが漂い始めます。
マッチで酒に点火するとボッと火が大きくなって、マッチの成分のリンが強く臭う瞬間がとても幸せなのです。
季節は新緑が眩しい初夏になり、今度の冬までヒレ酒とお別れかなと思っていた先日のこと、大阪の北新地を歩いていました。
格式高そうな小料理屋の店頭に置いてあったお品書きに“夏の冷やしヒレ酒あります”という文字を見かけました。
冷酒のヒレ酒はとても興味がそそり、是非とも飲んでみたいものでしたが、まだ今は真昼間。店が開く夕方までかなり時間があったので諦めました。
…もっとも自分の財布の中には、格式ある小料理屋で酒を存分に楽しむだけの持ち合わせはなかったことは言うまでもありません。
冷やしヒレ酒は辛口大吟醸の冷酒に焼いたフグのヒレをゆっくり漬け込むことで、さっぱりとした日本酒の味わいの中に深くてまろやかなヒレの旨みが楽しめるとのことです。
ああ、いいなぁ。
そしてこの冷やしヒレ酒、自宅でも作ることが出来ます。
清酒1合にフグの焼きヒレを2枚入れて、冷蔵庫で2日程冷やすだけでヒレ冷酒の完成です。
冷蔵庫ではなく、日が当たらない常温の環境で置くとひや酒にもなります。
そこはお好みでどうぞ。
熱いヒレ酒は一気に熱を通して香り付けをすることに対して、冷やしの場合はじっくりと置いてじわじわと味付けしてゆく違いがあるのですね。
この夏にまた大阪に出掛けますので、そのときはハモをつつきつつ冷やしヒレ酒を傾けたいと思うのです。