魚を長く扱っている人は、その魚を一目見ただけで何処が産地か分かるそうで、例えば市場に並んでいるマダイを見てこれは明石産なのか、それとも広島なのかすぐに分かるとのことです。
そしてそんなプロの人々は鮮魚店で並んでいる魚を見て、自分が売った魚か他人が売った魚なのかということまで分かるのです。
昔、ある魚市場会社で魚に関する座談会が開かれたときのこと。
瀬戸内海のマダイは外洋から入り込んでくるかどうかについて話し合われていました。
ある人は外海から入って来る証拠として、産卵期は紀伊水道や豊後水道から始まって、瀬戸内海の奥まったところほど時期は遅れることを指摘しました。
これに対して鮮魚のプロは外海と内海ではマダイの顔つきが大きく異なるので、外洋のマダイが瀬戸内海に入り込んでくることはありえないと反論しました。
さてこの議論、どっちが正しかったと思います?
鮮魚のプロのいうことは経験的な主張で科学的根拠はあるのかと思いたくなりますが、実は決定的な違いというものがあったのです。
外海と内海のマダイの顔つきが違うということ以外に、鱗を見てみると外海のマダイは内海のものと比べて鱗に出来る年輪が不明瞭だったのです。
それに対して、瀬戸内海のマダイの年輪は大変はっきりしているものでした。
このことについて外海は黒潮が直接海岸まで押し寄せて来るため、冬でも水温は暖かいので成長が常に続きますが、内海は冬の水温が低いのでマダイの成長が止まってしまい、こうした相関が鱗にできる年輪にはっきり表れるのでした。
そのため先程の「産卵期の違い」について、瀬戸内海の水温上昇は奥まれば奥まるほど遅くなるということが分かりました。
その後の研究で瀬戸内海のマダイは外洋のマダイと交わらないばかりではなく、瀬戸内海でも各々独立した群が存在しており、これらも交わらないことがわかりました。
瀬戸内海周に生息する同じ年齢のマダイの成長を調べてみると、明石産のものの重量を100としたところ、和歌山、徳島に生息するものは83、香川県の荘内半島沖・燧灘(ひうちなだ)のものは62、佐賀関は46、広島は41という数字になりました。
瀬戸内海だけでも、同じ年齢のマダイが生息域によって体重や体長が大きく異なっているのです。
それぞれ独立した群の顔つきが違ってくるのも納得です。