ノルウェーの漁業への取り組みを、日本が今学ばねばならない時期に来ています。
かつては世界屈指の漁業大国だった日本は、最盛期の漁獲量の3分の1まで減っています。
原因はいろいろ考えられますが、乱獲や日本の漁業管理システムの問題、それに漁師の高齢化や後継者不足も大きな要因です。如何すれば漁業に活気が戻るのか、4人の専門家のセッションが行われました。
世界海事大学(スウェーデン)の北田助教授の話では、今日の日本と対照的な国がノルウェーです。ノルウェーは漁業が成長産業といわれます。ノルウェーもかつて、魚が減っても獲り続けた時期がありました。
いったん減少した資源は容易に回復しません。膨大な年月を要することは、日本も知っています。ノルウェーは大胆な改革によって、今日の繁栄に至っています。
それではどのようにしてノルウェーは負の連鎖を断ち切ったのでしょう。ノルウェーは漁師のライセンスを制限し、漁船ごとに漁獲量を割り当てる制度を整えたのです。割当量は科学的に資源が守れる量に抑えられています。
結果、「ほどよく獲って利益を上げる漁業」が実現したのです。1990年代後半からは国からの補助金はほとんど不要になったといわれます。
一方、東京財団の小松正之上席研究員は、日本では漁業・養殖業生産量は80年代をピークに急激に減りました。しかし生産量トップ10カ国のうち、減ったのは日本だけなのです。
他の国は養殖を大幅に伸ばしましたが、日本は養殖も減少しています。日本が無策のように感じますが、大きな要因に漁業権を地元漁協に与え、他からの参入を許さないため、改革が進まないのです。
そして社団法人シーフードスマートの生田代表理事は言います。日本では「漁師が魚を獲ることが商売だ。獲りすぎはよくないと思うが、みんなが獲るのを我慢するためには、政治的な規制が必要だ」と政治的介入を必要とする声も上がっています。
国家戦略特区を担当した平将明内閣府副大臣は、養殖業や農業の生産性向上に取り組んできたが、資源が回復するまで支援し、儲かるようになったら返してもらうような補助金を創設したいと話しています。
小松氏は新潟県がエビの個別漁獲割当制度を採りいれ、政治、行政、現場にそれぞれにリーダーが必要となり、漁業の改革に取り組んでいることを指摘しました。
最後に生田氏は言います。「日本で改革を進めようとすると、例えばマグロ漁が規制されれば食べられなくなると騒ぐ。今規制すれば将来にわたって安定して食べられるという発想の転換が必要である」といいます。
北田氏は「漁獲を絞るのは心理的に受け入れがたいかもしれないが、必ず効果はある。感情ではなく理性で行動してほしい」と訴えています。
ノルウェーとの背景は違いがありますが、日本流の改革を果たしていただきたいと思います。美味しい魚がいつも食卓にあることを望みます。
(出典元:朝日新聞 2015年10月27日)