全国津々浦々に、魚の人工種苗施設が存在します。
産卵した卵の受精、ふ化、そして仔魚飼育…現在、全て人の手に委ねた魚類や貝類、甲殻類の生産技術が確立しており、安定した種苗生産が可能になりました。
産卵した卵からふ化した仔魚は成長して養殖の商品サイズになるまで、もしくは公益事業で海に放流するサイズまで育てるまでの間、魚の数が減耗することは宿命です。
自然減耗率であれば、培ってきたデータの分析で概ね解るでしょう。
仔魚の最適なふ化率や生まれたての仔魚にストレスのかからない水温帯や水質、仔魚が口を開けて最初に食べる餌、餌投与開始後の水質モニターや仔魚の挙動や消化の観察、仔魚の生息数計数を常に行い体長の測定、仔魚が成長して次のステージに移るときの餌の切り替えなど、常に観察を行いながら効率的な手法で生産を進めます。
常に種苗の飼育では細かい些細なことにまで気を使うことが求められます。
飼育で使う水槽や資材の殺菌や洗浄、施設入り口に設けられた消毒水を入れた容器で長靴の洗浄を必ず行う、手洗いをする、関係者以外の立ち入りを禁止するなど生産者自身に対しても徹底します。
外部から疾病の原因になるものを防ぐことが一番重要なのです。
しかし、どうしても仔魚の調子がおかしくなることがあります。
ビブリオ菌による消化不良、ある程度成長したところで始まる共食い、表皮に付く細菌など病気による減耗や原因不明の減耗は発生します。
そのリスクを最小限にするために、初期餌料の洗浄や、ろ過や紫外線照射を行った雑菌が混じらない海水で飼育、飼育密度の調整など最大限の対策を持って種苗を育てます。
不幸にしてウィルス蔓延など予期しえぬ病気による大量へい死が発生すると、打つ手がなく生産を中断して施設全ての殺菌を行わなければなりません。
生産のやり直しや他の種苗生産施設から融通をしてもらうなど、手間と時間、そしてコストが重くのしかかります。
問題はそれだけではありません。
ウィルスは伝播力が強く、他の健全な魚にも大きな影響を与えます。
また、ウィルスを持ったまま外洋に放流した場合、海にいる他の魚を汚染することになりかねません。
また、養殖でウィルスを含有したままの商品を市場に出したとしたら、食の安全が消費者に担保できなくなりブランドの失墜、行政罰や民事訴訟という非常に厳しい結果が待ち受けています。
ウィルスをはじめ様々な疾病を防ぐため、魚病の対策機関が国や都道府県の水産試験場に設けられており、常に疾病の研究が続けられております。
また養殖活動がさかんな漁協などでは、独自の疾病対策部門を設けており、常に生産している魚をサンプリングして緻密な観察や、疾病防止のための環境づくりや餌の開発を行っています。