未知の巨大生物ダイオウイカのナゾと、するめ実用化


ヨーロッパに古くから伝わる巨大イカの化物、「クラーケン」は船乗りに恐れられた存在でした。
クラーケンに遭遇したなら船は転覆され、人は一人残らず食われてしまうと信じられていたのでした。
やがて近代になり様々な事象が科学的に解明され、海洋やそこに住む生物についても研究が進みます。

その中で数メートル以上の巨大なイカが深海にいるという話が挙がっても、UMAのような未確認生物という空想じみた話にしか認識されていませんでした。
時折、巨大イカが波打ち際に打ち上げられても、合成写真の類だと一笑に付されていた時代がありました。

それでも、巨大なイカが海洋に存在するのではと研究は続いていました。
そして1996年に鳥取県の羽合海岸にダイオウイカが打ち上げられており、国立科学博物館で標本にされました。
21世紀に入って、全長7メートル位の巨大なイカの死骸が見つかっても、生きている個体はまだ誰も発見されなかったのです。
深海で生活するため全体数が少なく、サンプルの採集や解析に限界がありました。

そんな不思議なダイオウイカがベールを脱いだのは、2006年になってからです。
国立科学博物館の海洋生物学者、窪寺恒己氏が世界で初めて生きて泳いでいるダイオウイカの写真撮影に成功し、学術誌「the Royal Society」のウエブサイトで公開されました。
翌年には小笠原にて窪寺氏とNHKのチームにより、生きているダイオウイカの捕獲に成功し、力強く海水噴き出して泳ぐ姿に「従来の深海をゆっくり移動する」という説が否定されます。
その後もダイオウイカの死骸が打ち上げられたり、漁の網にかかったりと成体の個体が発見されています。
2014年2月にはサザエ漁で素潜りをしていた漁師の頭上に4メートルのダイオウイカが泳いでいたのを捕獲に成功しています。

ダイオウイカの生態が少しずつ明らかになってゆく中で2015年10月21日、兵庫県立人と自然の博物館にて全長60~160センチの幼体が初めて発見されたことを発表しました。
平成25年に鹿児島県肝付で1匹、島根県浜田市で2匹捕獲されました。
水深300~600メートル付近で生息する成体とは異なり、幼体は水深45~120メートル付近で生息していることが判明しました。
今回捕獲された幼体は生後一年ほどと推定されています。

さて、ダイオウイカの食用化についてですが、巨大なイカの体組織には浮力を得るための塩化アンモニウムが大量に含まれており、臭みやえぐみが強く食用には適さないとしています。
2015年2月に富山県射水市のイベントで、ダイオウイカをするめにして食べるというイベントが行われました。
前年11月に水揚げされた6.3メートル、重さ130キロのダイオウイカをするめにしたところ、3メートル、重さ6キロまでに縮んでしまいました。
河口を行った浜常食品工業によると、生のイカを塩漬けにしたあとに水で塩抜きして乾燥させる手順で10日間作業を行いましたが、こんなに大きなイカを加工した経験がないので調整加減が難しかったとのことでした。
勿論、食用にあたり県の検査で汚染物質がないことを確認してクリアしたものでした。

手間暇が非常に掛かったダイオウイカのするめでしたが、アンモニア臭は抜けても苦みが残り、「まずいというほどではないが次も食べてみたいとは思わない」という味だったそうです。
浜常食品工業の社長によると、ダイオウイカを1匹加工するにも本業のスルメイカの乾燥機を5日間ストップさせてしまい、割に合わない。もうやらないだろうし、他の誰かもやろうと思わないだろうと笑っていたそうです。

ダイオウイカの生態や食用研究はまだまだ長い道のりですね。

 

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