アワビの親戚…夏が旬の貝トコブシ


アワビはミミガイ科の藻食性巻貝の種に属します。
そのアワビと全く一緒の属種で「トコブシ」という貝があります。
岩にひっくり返っているトコブシが、波に流れるように素早く起き上がって逃げ出す様から、「ナガレコ」、「ナガラメ」という呼び名で親しまれています。

見た目はアワビと一緒ですが、大きさが一回り小さく成貝の殻長は7センチ程です。
また殻の突起孔の数に違いがありアワビは4~5個、トコブシは6~9個存在します。
ただ味はアワビに劣らず非常に美味で、比較的高値で取引されています。
そのため、水産業者ではアワビとトコブシを分類的に区別しないことも多く、築地市場ではアワビの小さな若貝を「トコブシ」として販売されています。

トコブシは概ね春過ぎから秋前までが素潜り漁の期間で、夏が一番旬の貝なのです。
寿司ダネでは夏だけ出回ります。
トコブシの代表的な料理はトコブシの煮付け、酒蒸しなどです。
煮付けの料理方法の歴史は戦国時代からと大変古く、甲斐の商人が駿河に商売したときに海の幸を持ち帰りたいという思いから、駿河湾で獲れたトコブシを醤油で煮付けすることで保存食として交通の不便だった甲州へ馬で運ばれていました。
武田信玄もお気に入りだったといいます。
今でも甲州地方ではトコブシの煮付けが名産料理です。
他にもバターソテーや味噌焼き、唐揚げ、ステーキ、刺身など様々な料理方法があります。
弾力のあるコリコリとした食感はやみつきになります。

さて、トコブシには日本では二種類存在します。
日本固有種のトコブシと、基亜種のフクトコブシです。
生息域の違い以外は、殆ど変わりがなく美味しさも変わりません。
トコブシは北海道南部から青森男鹿半島から九州北部にかけての沿岸に生息し、フクトコブシは八丈島が生息の北端で、九州南部から種子島、屋久島、奄美諸島、沖縄諸島など南シナ海の島嶼、台湾、インド洋海域、西太平洋など温暖な環境に生息します。
トコブシ・フクトコブシが生息するうえで好む環境はアワビと変わらず、沿岸の潮間や岩場に存在して海藻を主な主食源とします。

トコブシはアワビと同様、密漁のパトロール、生息域の藻場造成、漁期中の捕獲数割り当てなど、漁協や地方公共団体によって厳しい資源管理を行っています。
またトコブシを栽培漁業の対象として、人工採卵して育てた稚貝を海に放流して個体数を維持する地方公共団体は日本国内で数多く存在します。

 

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