さて魚類は周囲の水温によって体温が左右される“変温動物”ということは広く知られていますが、そのメカニズムについ掘り下げてゆきたいと思います。
昔、こんな実験がされました。
金魚の体を綿布やアルミ箔で包んで、できるだけ体温の変化を小さくさせます。
そして口からエラまで管を通して、周囲の水温と異なる温度の水を流せるようにします。
このとき、周囲の水温は25℃に設定しているのですが、エラに流す水温を徐々に下げてゆくと魚の体温も次第に下がってゆきます。
流す水が16℃まで下がったとき、周囲の水温は25℃なのに金魚の体温は16℃近くまでになってしまいました。
つまりエラの表面を流れる水の温度が下がると、体がそれより高温の水の中にいても体温は下がってゆくのです。
そして同じ種の魚でも、大きい個体より小さな個体の方が体温の変化は早くなります。
体が小さい個体の方が心臓から送り出される血液量やエラの表面積が相対的に“大きい”からなのです。
魚類は体温が周囲の水温の影響から免れることができないので、季節によって周囲の水温が変われば自らの体温も変わり、水温が暖かい表層と冷たい深層を行き来する魚は常に周囲の水温と体温が連動しているのです。
しかし全ての魚類が水温の変化に対して体温が変化する訳ではなく、魚の生活に適した温度範囲は魚種によって大きく異なります。
かなりの水温の差に適応できる魚もあれば、わずかな水温変化で死んでしまう魚もあります。
以前、栽培漁業機関で仕事をしていたとき、夏場のヒラメの畜養試験をしていたことがあります。
冷たい海水を好むヒラメが夏場の25℃以上の水温になると弱りだし、真夏の30度近い水温になるとバタバタ死んでいったことを覚えています。
また体が弱って免疫力が落ちるので、体表には寄生虫が付きやすくなり疾病が冬場よりも一層起こりやすくなります。
基本的にこの施設では1月に孵化した個体を5月まで育てて県内各地の沿岸で放流するまでがヒラメの種苗生産の範疇で、放流時期が終わった夏以降にヒラメを育てることはこの施設では想定していませんでした。
ヒラメを夏場も含む通年育てている機関では、ヒラメの生息水温に下げる海水冷却機が使われています。
画像出典元:http://iterry.blog.so-net.ne.jp/2012-05-02