
🧬 ワックスエステルとは
ワックスエステル(Wax Ester)は、脂肪酸と高級アルコールが結合した「ロウ状の脂質」です。
普通の魚油(トリグリセリド)と違い、人間の消化酵素では分解しにくく、そのまま体外に排出されることがあります。これにより、多量に食べると「脂肪ロウ便(油の排泄)」などの消化不良を起こすことがあります。
深海魚や高脂質魚に多く含まれ、これらの魚は高い水圧・低温環境で浮力を得るために、この特殊な脂質を体内に貯めています。
⚠️ 食用上の注意
- 日本では、バラムツ・アブラソコムツは「販売・提供禁止」になっています
- ミナミカゴカマスやギンムツ類も、名称誤表示や販売時に注意喚起が求められます。
- 少量を調理・試食しても問題がない場合もありますが、人によってはごく少量でも油漏れ症状が出ることがあります。
- この油は無臭透明で、調理後も見た目で判別しにくいため要注意です。
🌊 ワックスエステルが多い理由
深海魚は浮き袋を持たない種が多く、その代わりに体内脂質(ワックスエステル)を浮力調整材として使っています。
この脂は低温でも固化しにくく、深海(2〜4℃程度)での生活に適応した構造を持つため、消化困難な性質を持ちます。
🧮 ワックスエステル含有量比較表
魚種名 | 学名 | 主な分布 | 総脂質中のワックスエステル割合(概算) | 備考・特徴 |
---|---|---|---|---|
バラムツ(Oilfish) | Ruvettus pretiosus | 熱帯〜温帯の深海(沖縄・南太平洋など) | 40〜70% | 最もワックスエステルが多い魚。摂取後にロウ便を引き起こす。国内販売禁止。 |
アブラソコムツ(Escolar) | Lepidocybium flavobrunneum | 世界の深海(200〜800m) | 20〜40% | 脂が非常に濃厚で旨味が強いが、摂取注意対象。米国FDAでも注意喚起あり。 |
ミナミカゴカマス(Southern escolar) | Promethichthys prometheus | インド洋・太平洋の熱帯深海 | 10〜30% | バラムツ類に近い脂質構成。浮力維持のためにワックスエステルを多く含む。 |
ギンムツ(Silver cod) | Dissostichus eleginoides(※) | 南氷洋・南太平洋 | 5〜10%前後 | 通常の魚油主体だが一部ワックスエステルを含む。深海適応性の脂質構造。 |
アブラボウズ | Erilepis zonifer | 北日本〜アラスカの深海 | 3〜10% | 深海魚特有の高脂肪。個体差が大きく、食べ過ぎで油症状が出ることも。 |
メダイ(深海個体) | Hyperoglyphe japonica | 日本沿岸〜太平洋中層 | 1〜5% | 通常はトリグリセリド主体。深場個体に限り微量のワックスを含む。 |
アイザメ(肝油) | Centrophorus granulosus など | 深海(300〜1000m) | 20〜60%(肝油中) | スクアレンやワックスエステルを多く含む。食品利用は精製後のみ。 |
ギンダラ(参考) | Anoplopoma fimbria | 北太平洋(寒冷域) | 0% | ワックスエステルを含まない。脂質はトリグリセリド主体で消化良好。 |
ワックスエステルは、高級脂肪酸と高級アルコールが結合したロウ状の脂質です。
例えるなら「ミツロウ(蜂のロウ)」や「車のワックス」と同じような性質を持っています。
- 化学構造が非常に安定している
- 常温では半固形〜固体
- 水にも油にも溶けにくい
- 消化酵素では分解されにくい
この構造が強固なため、調理による物理的・化学的変化をほとんど受けません。
⚠️ 食品衛生上の対応(日本)
- 厚生労働省はバラムツ・アブラソコムツの販売・提供を禁止(食品衛生法第6条)。
- ミナミカゴカマス・ギンムツ類は流通可だが、「食用不適」「注意喚起」などの明示が推奨されている。
- 誤販売(例:ギンダラとして販売)により健康被害が起きた事例が複数報告されている。
🧭 どうすれば除去できるのか?
調理ではなく、前処理(工業的な精製・分別)でしか除去できません。
実際の除去方法は以下のようなものです:
- 低温分別(冷却・濾過):脂を固化させて分離
- エタノール抽出:溶解性の差で除去
- 吸着精製:活性炭・シリカゲルで吸着
☢ワックスエステルは、「焼いても煮ても落とせない」脂質です