魚の初期種苗生産で大切なこと…仔魚の離乳食 その2


前回、魚類の種苗生産は初期飼育が大切なことを綴りました。
その中で初期餌料について少し触れましたが、今回はそのことについて綴ってゆきたいと思います。

魚類は、ふ化をした直後から数日間は口が開いておらず、外部からの餌は食べません。
お腹の下に卵黄があり、その栄養を摂って生活しています。
(※1 写真はふ化3日後のヒラメ仔魚)
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ふ化後概ね5日以降が過ぎるころに卵黄が消化されて、仔魚の口が開きます。これを開口と呼びます。そのとき、卵黄があった部位には腸管が形成されます。
養殖魚、天然魚に限らず、この開口した時期は体長が5㎜に達していないため、食べられる餌は動物性プランクトンなどが中心になります。

種苗生産機関では、この離乳食ともいえる動物性プランクトンの培養を行っています。
魚類の生産機関で使われている動物性プランクトンは「シオミズツボワムシ」と呼ばれる、125-315μm(1μmは0.001㎜)の大きさの汽水種に生息する輪形生物です。※2
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壷型の胴体の中に消化器官があり、頭の上の繊毛で水中を泳いだりして活動をします。
単為生殖を行うので原則的にメスしか存在しません。
胴体の上に卵を載せており、メスの個体がふ化をしてこのサイクルが続きます。
生活している水質が悪くなると卵を持たない個体が増える、または卵が小さくなりふ化する子はオスになり、ワムシの生活サイクルが乱れます。

元々、このシオミズツボワムシは古くよりウナギ養殖業者が知っている存在でした。
汽水下ではワムシの繁殖力が非常に高く、大発生します。
養殖池の水質が悪化してしまいウナギの生息に悪影響を与えることがありました。
この状態を「水替わり」と呼ばれ、養殖池ではワムシの発生状況を把握するために「自動式輪虫採集装置」が作られました。
それほどウナギ養殖業者にとってはワムシの存在が忌々しい「害虫」だったのです。

これに注目したのが三重県立大学の伊藤隆氏で、汽水、海水どちらの環境でも生息、増殖できること、ワムシは微小な藻類を主食にしていること、ワムシの大きさが開口したばかりの魚が食べられることが容易なサイズであること、栄養価があることを突き止め、魚類の生産現場で最初の給餌ステージにワムシの活用を提案しました。1960年(昭和35年)のことでした。

ワムシが見つかるまで、魚の人工ふ化は成功したものの、開口後に仔魚へ適した餌を与えることが難しく、大量種苗生産を成功させるための大きな課題になっていました。
そのステージの救世主がウナギ養殖業者には「害虫」に過ぎなかったワムシだったのです。

ワムシが食べる微小生物で、ナンノクロロプシスという植物プランクトンが、手間がかからず増速できるということもわかり、しかもワムシの栄養強化=仔魚の栄養確保に繋がるのです。
ワムシの培養は研究が進むうちに、パン酵母で増殖することもわかりました。
これにより、種苗生産施設の小さなスペースで、ワムシの増殖ができるようになります。
そして更に、濃縮クロレラで生産することで培養の効率化に繋がることが判明します。
現在、ワムシ培養の濃縮クロレラは市販されています。※3
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※1画像出典元:https://www.pref.chiba.lg.jp/lab-suisan/suisan/soshiki/futtsu/hirame.html
※2画像出典元:http://www.agri-kanagawa.jp/suisoken/mailmag/pic_255_2.html
※3画像出典元:http://www.sobunsha.com/aq-4/chlorellakougyou3.html

 

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その3>

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